筆者は大阪府和泉市および兵庫県姫路市で、特定空家に指定された物件を4つ見学してきました。その上で、最も重要なポイントをあげると「特定空家に指定されているのは、危険な状態の建物が多い」ということ。
その他の基準に比べて「危険かどうか」はより重要な要素と考えられるのです。
そこで、もし「自分が所有している空き家が特定空家に指定されるのではないか」と心配な場合は、「危険な状態であれば急いで対策したほうがいい」と考えるべきでしょう。
では、「危険な状態」を自治体はどう判断しているのでしょうか?
この記事では、複数の自治体が設けたガイドラインをもとに、どのような状態が危険と判断されるのかに踏み込んで、特定空家の認定基準を考えていきます。
自治体による特定空家の認定基準は4つ

空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、法)の第2条第2項では、次のいずれかの状態にあると認められる空き家を「特定空家等」と定義します。
- そのまま放置すれば倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより、著しく景観を損なっている状態
- その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
保安上危険、衛生上有害、景観阻害、生活環境阻害という、4つの要件があるわけです。
国土交通省のガイドラインをはじめ、各自治体が作成している判断基準でも、ほぼ同じ順番でこの4項目が並んでいます。
しかし、ひとつ大事な注意点があります。
この4つの基準は、数値だけで機械的に判定されるものではありません。国のガイドラインにも「必ずしも定量的な基準により一律に判断することはなじまない」という記述があります。実際には、建物の状態に加えて、周辺への悪影響の程度や、危険の切迫性を総合的に見て判断されます。
この点は、後ほど筆者自身が見てきた現地事例で詳しく説明します。
なお、2023年の法改正では、特定空家になる手前の段階として「管理不全空家等」という区分が新設されました。こちらは記事後半で触れておきます。
保安上危険の判定基準

前章であげた4要件のうち、もっとも具体的な数値が出てくるのが「保安上危険」です。ここでは、複数の自治体資料に共通する「保安上危険か」を判定する目安を、実際の測り方を含めて見ていきます。
横瀬町や和光市の資料では、建物の不良度に加えて「周辺に及ぼす影響」「危険の切迫性」を組み合わせて評価する仕組みが取られています。裾野市の資料も、通行人や近隣住民への影響を「ほとんど影響がない」「影響がある」「相当の影響がある」の3段階で別途判定し、建物の状態と掛け合わせて総合的に結論を出します。
記事冒頭で解説したように、その建物が危険かどうかを前提に、総合的に判断するという考え方がうかがえます。
建物本体の傾き(数値の目安)は1/20超
木造建築物の傾きについては、多くの自治体で「1/20超」という数値が目安として使われています。
裾野市、和光市、小平市、和歌山市の資料、そして国土交通省のガイドラインでも、木造で特定空家に該当する目安として、この数値が繰り返し出てきます。
鉄骨造の場合は、少し扱いが分かれます。裾野市は一律「1/30超」としていますが、和光市や小平市では、傾いた階の上に何階あるかで基準を分けています。上の階が1階以下なら1/30超、2階以上なら1/50超(上に重さが乗る分、より小さな傾きでも危険と見なされる、というイメージです)。
測り方も具体的です。柱に下げ振り(重りを糸で吊るした、垂直を測る道具)を当て、上下の水平方向のずれ(d)を、測定した高さ(h)で割ります。裾野市の資料では、h=1,200mmのときd/hが1/20を超えるかどうかで判定する、という計算式が示されています。
判定の示し方自体は、自治体によって違います。「管理不全空家等」と「特定空家等」を2段階で並べる方式、L1〜L3のランクで示す方式、点数を積み上げる方式。形はさまざまですが、木造1/20超という中身は、驚くほど揃っています。
構造部材・屋根・外壁の破損
基礎、土台、柱、はり。建物を支える部分の劣化も、重要な判定項目です。
管理不全空家等の段階では「破損、腐朽、蟻害(シロアリなどの被害)、腐食等が生じている」ことが基準。これが特定空家等になると、「倒壊のおそれがあるほどの著しい破損」「構造部材同士のずれ」というように、一段階踏み込んだ表現に変わります。
裾野市の資料では、この「著しさ」を損傷率という数値で示しています。基礎なら、傷んでいる部分の長さを基礎全体の長さで割った割合。柱なら、傷んでいる本数の割合です。中破(30〜65%程度)、大破(65%以上)という区分がありますが、これは裾野市が採用している一例であり、すべての自治体で同じ数値が使われているわけではありません。
屋根・外壁・看板・屋外階段についても、同様の「軽微→著しい」という流れで判定されます。
塀・擁壁・立木のリスク
門や塀は、大きなひび割れや破損、目で見て分かる傾きが基準になります。控え柱との接続部が離れている、基礎部分に亀裂がある、といった状態も含まれます。
擁壁(がけ地などを支えるコンクリートや石積みの壁)は、水のしみ出しや水抜き穴の詰まりといった軽い兆候から、ひび割れや変状、著しいふくらみへと進みます。崩壊すれば土砂が流出する危険があるためです。なお裾野市の資料では、擁壁の判定対象を「高さ2m以上」としつつ、それより低くても崩壊時に隣地へ影響が出るものは対象に含める、としています。
衛生上有害の判定基準

衛生上有害かどうかの判定は、臭気の強さや、害虫の量など数値化しにくいものが中心になります。判定は「どの程度から著しいと言えるか」という線引きが中心になります。
ゴミ・害虫・悪臭
管理不全空家等の段階では、「常態的な水たまりや多量の腐敗したごみが敷地にある」「大量のごみが散乱している」という基準。特定空家等になると、「著しく多数の蚊、ねずみ等が発生している」「著しく散乱し、または山積したごみがある」という、一段強い表現に変わります。
害虫や害獣の種類も、ある程度具体的に定義されています。蚊、はえ、のみ、シロアリ、カミキリムシなどの穿孔害虫(木材に穴を開けて棲みつく虫)。ねずみや野良猫。自治体によっては、スズメバチの巣やセアカゴケグモといった危険生物への言及もあります。
「著しい」の目安として、具体的な基準を見ておきましょう。たとえば、ハエや蚊が敷地境界の付近で顔を払う程度に飛んでいる、ねずみの姿やフンが実際に確認できるなどなど。数値では表せない分、「どんな状態を見たら判断できるか」という目線で書かれているのが特徴です。
動物の鳴き声についても、著しい頻度や音量という表現が一般的ですが、埼玉県秩父郡横瀬町の資料では、実際にデシベル(音の大きさを表す単位)で測定する欄が設けられていました。
浄化槽の放置・汚水の流出
管理不全空家等の段階は、「設備が破損している」「封水が切れている」(排水口の水が抜けて、下水のにおいが上がってくる状態)という、まだ設備側の異常にとどまる書き方です。これが特定空家等になると、「汚水等が流出している」「汚水等の流出のおそれがあるほど著しく破損している」というように、実際の被害や、被害に近い状態へと進みます。
なお、アスベスト(石綿)を含む建材の破損について、管理不全空家等の場合は「外装材や部材が破損している」にとどまりますが、特定空家等になると「石綿が飛散する可能性が高い露出状態」が判断基準。点数化方式を採用している自治体の資料を見ると、石綿の飛散には、建物本体の傾きに匹敵するほど高い点数が割り当てられているケースもあります。衛生上有害の中でも、特に重く見られている項目だと分かります。
景観阻害・生活環境阻害の判定基準

残る2つの基準、景観阻害と生活環境阻害は、法律上は別の項目ですが、実際の判定内容には重なる部分があります。ここではその2つの基準をまとめて解説していきます。
越境樹木・倒木のリスク
自治体が景観計画や景観地区を定めている場合、その形態や意匠のルールにどの程度適合しないか、という視点で判定されます。管理不全空家等は「適合しない状態」、特定空家等は「著しく適合しない状態」と考えられます。
ただし、こうした景観ルールを定めていない自治体もあります。その場合は、色褪せや破損、ゴミの散乱による「周囲との著しい不調和」という、もう少し一般的な観点で判断します。
立木の繁茂については、具体的な表現がいくつかあります。「立木が建築物の全面を覆う程度」という記述が複数の自治体資料で使われており、先行事例の中には「投影面積の8割以上に蔓が繁茂している」という、より定量的な目安を示すケースもあります。
道路や隣地への越境も、生活環境阻害の側面から判定します。横瀬町の調査票には、越境した立木や草の長さを実際にセンチメートル単位で測って記入する欄があります。先行事例の中には、「歩行部分の高さ2.5m以内に50cm以上はみ出している」「敷地外に50cm以上はみ出している」というように、通行の妨げになる具体的な高さと長さの基準を示すものもあります。
道路の種別も判定に関わります。町道か国道・県道か、幅員は何メートルか、歩道の有無はどうか。同じ越境でも、交通量の多い道路に面しているかどうかで、周辺への影響の重みは変わってきます。
野良猫の繁殖・不審者侵入のリスク
「生活環境阻害」のもうひとつの重要論点が、動物の棲みつきや不審者の侵入です。
動物の棲みつきは、管理不全空家等の段階では「駆除されず、常態的に棲みついている状態」と規定されています。特定空家等になると、「棲みついた動物が周辺の土地や家屋に侵入している状態」「著しい頻度や音量の鳴き声が周辺に及んでいる状態」というように、実際に周辺への影響が生じている段階を想定しています。
不審者の侵入についても、管理不全空家等は「開口部の破損」「未施錠」といった、侵入されやすい状態を想定。特定空家等になると「不法侵入の形跡がある」「不特定の者が容易に侵入できるほど著しく開口部が破損している」という、実害またはそれに近い状態を想定しています。
先行事例では「窓ガラスが割れ、破片も残っていない」「門扉や外壁に人が通れる貫通穴がある」といった、より具体的な状態も基準として挙げられています。
積雪のある地域では、落雪や土砂の流出もこの項目に含まれます。
管理不全空家についておさらい

ここで、特定空家とよく混同される「管理不全空家等」について再確認しておきましょう。
管理不全空家等は、2023年(令和5年)の法改正で新しく設けられた類型です。空家等対策特別措置法第13条第1項では、「適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態」と定義されています。
つまり、まだ特定空家ではないけれど、このまま放っておくと特定空家になりそうな状態、ということです。
この区分ができた背景には、特定空家になるのを待ってから対応するのではなく、その手前の段階から自治体が関与できるようにする、という狙いがあります。実際、管理不全空家等に認定されると、自治体はまず所有者に対して改善の指導を行います。それでも状態が改善されない場合には、勧告という、一段強い措置に進みます。
管理不全空家に指定された段階で固定資産税額が上がる可能性
固定資産税の住宅用地特例が外れるのは、「特定空家に認定されたら」というイメージを持たれがちですが、実際にはもう少し早い段階で起こり得ます。管理不全空家等の段階でも、勧告を受けた時点で、その敷地は住宅用地特例の対象から除外されます。特定空家になってから初めて増税されるわけではない、という点は、押さえておく必要があります。
整理すると、次のようになります。
- 管理不全空家等:放置すれば特定空家になるおそれがある状態。指導、さらに勧告へ進むと固定資産税の特例が外れる
- 特定空家等:すでに保安上危険、衛生上有害などの状態にあると認められたもの。助言・指導、勧告、命令、そして行政代執行へと進む可能性がある
どちらも、放置すればするほど、より重いペナルティが課される制度になっています。
では、ここまでの基準やガイドラインが、実際の現場でどう当てはまるのか。次の章からは、筆者が実際に見てきた複数の空き家をもとに、具体的に確認していきます。
具体的な現地事例から「どうなったら指定されるか」を確認

ここまで、法律とガイドラインが定める基準を見てきました。
しかし、実際にどんな空き家が指定されているのか。具体的な事例を扱った記事や動画を探してもほとんど見つかりません。
そこで筆者は、実際に4つの特定空家を見学してきました。あわせて、行政が公表している勧告理由も確認しています。宅建士としての現場経験も踏まえて、ガイドラインという「物差し」が、実際の現場でどう使われているのかを見ていきます。
街の中に取り残された家(和泉市室堂町)

最初に見たのは、和泉市室堂町の物件です。
住宅地に囲まれた、古い区画の一角に残された家でした。前面道路の幅は1メートルを切っており、実測でおよそ70〜80センチほどしかありません。これでは重機を入れることもできず、除却したくてもできない事情があったのだろうと推測されます。
複数棟のうち1棟は、すでに完全に潰れて瓦礫のような状態になっていました。残った建物も、屋根や壁が破損しています。
すぐ隣には、新しく建てられた住宅があります。屋根や壁が崩落すれば、その住宅に直接危険が及ぶ位置関係です。住宅密集地であることも、この物件の判定に影響していると考えられます。
すでに危険が及んでいる家(姫路市木場)

4件の中で、もっとも崩壊が進んでいたのが、この物件です。
道路側から見ると、崩壊はまだ始まったばかりという程度に見えます。しかし裏側に回ると、様子は一変します。すでに大きく崩壊しており、壁が隣の建物に寄りかかり、崩れた建材が裏手の建物にまで入り込んでいました。

姫路市がこの物件に対して勧告を行った理由は、次のように記されています。
道路に面する建築物の外壁や屋根の老朽化が著しいため
そして、勧告の内容として、周辺に危害が及ぶおそれがある部分について、速やかに除却等の安全を確保する措置を講じるよう求めています。
「危険」というより、すでに「危害が及んでいる」状態です。この事例は、保安上危険という基準が分かりやすい形で当てはまるケースだといえます。
交通量の多い道路に面した家(姫路市野里大和町)

この物件は、まだ建物が崩壊するところまでは進んでいません。壁や瓦の一部が落ちている、という状態でした。
ただし、かなり交通量の多い道路に面しています。筆者がしばらく現地に滞在していた間も、自動車や歩行者の通行が絶えませんでした。今後さらに壁が崩れれば、通行中の車や歩行者に被害が及ぶ可能性があります。

この物件は、姫路市における管理不全空き家等の第1号として、令和6年に認定された事例。まず管理不全空き家等として法律に基づく指導が行われ、その後、同じ令和6年のうちに特定空家へと格上げされました。
管理不全空き家等から特定空家へ、実際にどのくらいの期間で段階が進むのか。この物件は、その具体的な一例といえるでしょう。
生活道路に面した家(姫路市生野町)

もともとは連棟式の建物だったと見られる物件です。半分ほどを解体し、残った部分に新しい壁を作って使われていた形跡がありました。すでにかなり崩壊が進んでいます。
姫路市は、瓦などの崩落を主な危険要因として捉えているようです。市の勧告理由には、次のように記されています。
老朽化により屋根の陥没や外壁の大規模な破損等が発生し、建物の沈下等が見られ、著しく保安上危険な状態のため
前面の道路は、こちらも幅員の狭い、いわゆる二項道路です。

しばらく見ていると、小学生が通る姿も見られました。建物自体はまだ完全に崩壊してはいませんが、通行する人の年齢層や頻度を考えると、危険性の高さは現地でも感じられました。
損傷が同程度でも指定されない家(姫路市余部区下余部)
一方で、これらとほぼ同じ、あるいはそれ以上に崩壊が進んでいながら、特定空家に指定されていない物件もあります。
畑の中に単独で建つ、この物件です。屋根が抜けて空が見え、崩落した建材が地面に散らばっている状態でした。姫路市がすでにカラーコーンを設置しており、危険は認識されていますが、特定空家の指定には至っていません。
崩壊が進んでいるが、ただちに人に危険を及ぼすものではない点が、判断基準になったと推測できます。
5件の事例から見えてくること
損傷の大きさだけで並べると、木場と下余部の物件がもっとも重大で、室堂町がそれに続き、野里大和町と生野町はまだ軽度な状態です。
しかし、指定されているのは、下余部を除く4件すべてでした。
これらに共通しているのは、「危険」というキーワードです。すぐとなりに新築住宅があったり、交通量の多い道路に面しているケースでは、具体的に被害が予測できます。それだけでなく、すでに隣家に被害が及んでいるケースもありました。
いずれも、建物の損傷そのものより、その損傷が具体的な危険につながっているかが問われているようです。
姫路市の勧告理由を見ても、「著しく保安上危険な状態」「周辺に危害が及ぶおそれがある部分」という表現が繰り返し使われています。
そこで筆者は、法の規定だけでなく、具体的な危険性と法の規定の両方が揃った時に、特定空家に指定されやすい傾向があると考えています。
まとめ「特定空家に指定される基準」

特定空家の認定基準は、法律で4つ定められています。保安上危険、衛生上有害、景観阻害、生活環境阻害です。
各自治体のガイドラインを見ると、木造建築物の傾きが1/20を超える、というように、共通する数値の目安が存在します。ただし、こういった基準は数値だけで機械的に判定されるものではありません。国のガイドラインにも「必ずしも定量的な基準により一律に判断することはなじまない」という記述があり、周辺への悪影響の程度や、危険の切迫性を総合的に見て判断される、とされています。
この点を確かめるため、筆者は大阪府和泉市と兵庫県姫路市で、実際に5件の空き家を見学しました。
損傷の大きさだけで比べると、もっとも重かったのは姫路市木場と、畑の中に建つ姫路市余部の物件です。ところが、畑の中の物件は特定空家に指定されていませんでした。
一方、すぐ隣に新築住宅がある、交通量の多い道路に面している、小学生の通学路になっているといった物件は、特定空家に指定されていました。
指定された物件には、建物の損傷そのものより、その損傷が具体的に誰かへの危険につながっているという共通点がありました。
姫路市の勧告理由にも、「著しく保安上危険な状態」「周辺に危害が及ぶおそれがある部分」という表現が繰り返し使われています。ガイドラインに示された基準は、あくまで判定の物差しです。実際の指定は、その物差しに、具体的な危険性が重なったときに下されている。これが、現地を歩いて確認できたことでした。


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